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舞台保存会だより132 子(ねずみ)の彫刻

令和2年は庚子(カノエネ)、所謂ねずみ年です。十二支の最初で、新しい巡りの始まりとされる年でもあります。

(平成8年にオリジナル絵馬としてデザインしていただいた干支のねずみ あさのたかを画)

子は時刻で言うと午前零時、方位は北にあたるといいます。いずれにしても物事の始まり、基準点を表す干支と言ってよいのでしょう。
十二支は確か中国古代の天文学に由来し、その方位を支配する神の名だったと思いますが、そこにどうしてねずみとか牛というような動物が配されたのか、分かりません。誰がどんな理由でこれを発明したのでしょうか?
ただこの動物配偶により十二支という宇宙論的・呪術的概念が一般化し、それにより現代人にまで親しまれているということは、まさに天才的な発明だったのだと思います。

(岐阜県養老町 高田まつりの車山「猩々山」その勾欄下には十二支彫刻が施されている)

干支の思想は中国を中心としたアジア各地に分布し、干支動物については国や民族により多少異同もあるようですが、ねずみはほぼ共通なようです。なぜねずみから始まるのか?童話による説明は兎も角、これも答えの難しい疑問でしょう。ただ、人間にとってねずみが好むと好まざるとにかかわらず一番身近な動物であるとは、確かなことです。

(「猩々山」の勾欄下干支彫刻 立川富昌作)

ペットにするねずみもいますが、ねずみ自体が好きという人はあまりいないと思います。何といってもネズミは害獣です。人の食料を食い荒らす一番駆除しなくてはならない生き物です。でも昔の住宅には必ずねずみがいて、ねずみとともに生活していました。イヌイットの住む北極圏は知りませんが、世界中いかなる地でも人のいるところ必ずねずみもいたのです。身近な動物として犬や猫もいますが、嫌いな人は飼いません。しかしねずみは勝手に同居します。極めて迷惑な同居人というのがねずみの位置づけです。

(安曇野市有明 有明山神社・裕明門 十二支の彫刻が彫られている)

一方でねずみは意外にも縁起の良い動物でもあります。その繁殖力のためか、子孫繁栄、財福の象徴とされます。害獣でありながら、人はどこかねずみを可愛く、愛ほしく感じているようです。家ねずみなどは「お嬢さん」と呼ばれたりします。雀などとも共通するところがありますが、悪さをする動物なのだけど決して否定だけではない。どこかにシンパシーを通わせるところのある動物なのだと思います。

(裕明門の干支彫刻「ねずみと大根」 清水虎吉作)

ねずみの彫刻というのは深志舞台の中にはありません。他所の山車や社寺彫刻では、所謂十二支彫刻として屡々登場します。大根と一緒に描かれることが多い。食物に足りた、飢えのない世界。ねずみが食べても困らぬほど豊作という意味でしょうか。縁起の良い図柄です。

(大谷浜條の蓬莱車(奥の方)とその檀箱彫刻)

知多半島の中ほど、常滑市大谷地区浜條の蓬莱車は、宮坂常蔵昌敬の檀箱彫刻「いぬと唐子」が見事な山車です。その檀箱の下のそれこそ高さ3㎝ほどの僅かな隙間に、ねずみの彫刻が施されています。信じがたいほど細かな彫刻ですが、擬人化されたねずみたちが実に生き生きと描かれている。おむすびころりんの世界に迷い込んだかのようです。とても楽しい。
こんなところにこんな素敵な彫刻。その遊び心がなんとも爽快です。

(檀箱の下部分に彫られたねずみたちの彫刻 宮坂常蔵昌敬作)

ディズニーアニメなど漫画のキャラクターとしても大活躍のねずみですが、十二支の中でも最も擬人化されやすい動物なのかも知れません。こういう彫刻を見ていると、人間は深いところでねずみと繋がっており、本性はねずみが大好きなのだろうと思います。

(平成8年の干支絵馬「ねずみと大黒さま」 あさのたかを画)